狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
それに上背のある男のスーツを纏っていても、鍛えられているだろうことが窺える、精悍な体躯には、そこはかとなく妖艶な色香が漂っている。
自分とは同じ次元で存在していないような、このとき、なぜかそんなふうに感じていた。
そこに男から冷淡ともとれる抑揚のない低い声音が降ってくる。
「何のつもりだ」
この男の醸し出す異様な雰囲気に呑まれてぽうっとしてしまっていた美桜はその声で我に返り、尚も男に言い募っていた。
「……た、助けていただいたのに、何のお礼もできないままだなんて、それでは私の気がおさまりません」
確かに、借りを作ったままでは嫌だというのもあるが、どうしてここまで自分が頑なになっているのか、美桜自身にもわからない。
これまで二十年間生きてきたなかで、こんなにも頑なに、自分の意思を貫こうとしたことがあっただろうか……。
そう思うほどに、自分でも驚くほどの強い意思と行動力とを発揮して。
「だったら、何をしてくれると言うんだ?」
依然男のスーツの袖を掴んだままの美桜に向けて、試すような眼差しと言葉とを投下した男に対して、意思のこもった強い口調で言い放っていた。
「やれと言われれば何でもします。本気ですッ!」