狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
この世の終わりだとでもいうように、呆然としている優太郎が不意に呟きを落とした。
「……いくらだ」
けれども背後にいる美桜でさえも拾えないほどの小さなものだったうえに俯いているため、他の者にも聞こえてはいなかったようだ。
すかさず長身の男が怪訝そうに問い返す。
「何か言ったか?」
すると優太郎は、開き直ったとでも言うような口ぶりで、開口一番放ったものと同じく、不遜な声を放った。
「金が目当てなんだろう? だったらいくらだ? いくら出せば気が済む?」
この人たちの間で、何があったか見当もつかないが、どうやら金銭で解決するつもりでいるらしい。
これは政治家に対する偏見かもしれないが。昔から政治の世界には黒い疑惑が絶えないことから、実に政治家らしい解決方法だなと思ってしまった。
世の中、結局は金や権力がものを言うのかもしれない。
そうであるのなら、家の駒でしかない自分には、何もないし、何もできはしないのだ。
貞操の危機を免れたと言っても、一時のことだろう。
ーーこの人たちとの事が解決したら、今度こそきっと……。
事の成り行きを傍観していることしかできないでいる美桜が、そうやって落胆しかけていた時である。
優太郎の正面に立っている長身の男から、これでもかというように威圧感満載の決然とした言葉が広い和室に木霊した。
「佐久間先生のやり方がよく理解できましたよ。だが、金なんて必要ない。今後一切うちと関わらないで頂きたい。それだけですよ。でないと、これをメディアに公表させて頂きます」