狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
そのことを意識してしまったせいで、美桜は妙な緊張感に襲われる。
さっきまで自然とできていたはずの呼吸の仕方さえもわからなくなってくる。
取り込む酸素量が激減したせいで、頭がくらくらとしてきた。
といっても、別に怖いというわけではない。
初対面の男といきなりふたりきりの状況に置かれ、どうすればいいかがわからないだけだ。
見た感じ、愼と同世代に見えることから、おそらく三十代前半ぐらいだろうか。
『華道界のイケメン王子』と称される甘い顔立ちの愼とは違って、纏っている独特のオーラと凄まじい威圧感に、鋭い眼光のせいか、恐ろしく整った相貌は、とても凜々しく、どこか危うさを孕んでいるようにも見える。
少し前まで、優太郎の魔の手からは逃れられないだろうと、諦めの境地に達しかけていたというのに。
いつしか美桜は、眉目秀麗、容姿端麗の言葉を体現したかのような、長身の男の優れた見目にすっかり魅入られてしまっている。
そんな美桜の元に、悠然と歩みを進めてきた男から、さっきまで優太郎にかけられていたものとは違った、思いの外優しい声音が降らされた。
「怖がらせて悪かったな」
声をかけられるとは思わず、驚きのあまり、心臓と身体とがビクンッと大きく跳ね上がる。