狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
対面になっている向かいの席には、大柄の男ーー兵藤《ひょうどう》と中肉中背の優男ーー中倉《なかくら》通称ヤスが腰を落ち着け、兵藤の正面に位置する美桜は、長身の男ーー九條尊《くじょうたける》と隣り合ってシートに座している。
威圧感満載な男らのせいで、快適に走行している車内には、なんとも重苦しい空気が充満している。
居心地の悪さを覚えた美桜は、所在なさげに身体を縮こめてしまっていた。
そこに不意に、ヤスから思いの外調子のいい明るい声が響き渡ったことで、場の空気が一気に緩んだ。
「もーヤダなぁ。若い女の子相手にそんな怖い顔してたら、泣かれちゃいますよ。頭《かしら》ぁ」
しかしそのことにホッとし息をつく間もなく、優太郎に怒声を放っていた同一人物とは似ても似つかない、ヤスのチャラいくらいの軽快な飄然とした声に、一瞬誰の声かと耳を疑ったくらいだった。