狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
いくら世間知らずな美桜でも、『極道』がどんなものであるかぐらいの認識はあった。
とはいえそれはドラマや映画などで知り得た知識ばかり。
それも、前家元がその昔流行っていたという極道モノ、いわゆる任侠映画の熱狂的なファンだった影響から、その知識は古い上に非常に偏っていた。
そうとは知らない美桜の脳裏には、昭和の名優らがサイコロを振ったり、日本刀やドスを振り回したり、小指を詰める場面が映し出されていたのである。
「ーーええッ!? 極道って。あの、切った張ったの世界で、サイコロを振ったり、敵対する組と抗争したり、小指を詰めたりする、任侠映画でお馴染みのヤクザ屋さんのことですか?」
興奮気味に思わず漏らした美桜の言葉に、一瞬、三人が凍り付いたように固まってしまう。
けれどもすぐに、三人が揃いも揃って肩をぷるぷる震わせはじめる。かと思えば、ぷっと吹き出す姿に、美桜はわけがわからずキョトンとしてしまっていた。
少しして、いち早く笑いを収めた尊から、驚嘆したというような呟き声が聞こえてくる。
「……まぁ、世間知らずのお嬢様の知識が古すぎるのはしょうがないとして」
そして立て続けに放たれた問い掛けには、あからさまに呆れを孕んでいるように聞こえてしまう。
「お前、そうとも知らずに、のこのこ俺に着いてきたのか?」
馬鹿にされたと思った美桜は、腹立ちさと羞恥で赤らんだ頬をぷっくりと膨らます。
確かに来る気があるかと問われて頷きはしたが、着いてきたと言うより、強引に担がれてきたようなものだ。しかも尻まで叩かれている。
ーーおまけに、のこのこ着いて来たのか、だなんて、あんまりだ。
「……そ、それはだって、突然のことで気が動転していたし。それに……」
言ったところでどうにもならないと言い淀むも、気持ちが収まらない。