狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
ヤクザと政略結婚!?
尊から衝撃的な言葉をお見舞いされてから、かれこれ四時間が経過した頃。高級料亭から連れ出されたとき同様、黒塗りの高級車に乗せられ、揺られること数十分。時刻は午後一時を少し過ぎた頃だろうか。美桜は住み慣れた天澤家の豪華絢爛な数寄屋造りの母屋へと舞い戻っていた。
しかし家に帰ってきたというわけではない。
この家から出るため、尊の嫁となるためである。
住み慣れたといっても、特に思い入れも愛着もない。
両親の顔を見ていると、昨日の見合いの席でのことを思い出してしまう。自分がただの駒としてしか扱われてこなかったことを改めて突きつけられているようだ。
なんともいたたまれない気持ちになってくる。
尊の言葉には驚いたが、あの後。
『そうでもしないと、あの家から出られないんじゃないのか? それに、俺にはなんのメリットもないからな。お前のことを利用させてもらうことにした。言っておくが拒否権はないぞ。俺の傍に置いてくれと縋ってきたのは、お前だからな』
そう言われてしまうと、返す言葉などなかった。
尊は、誰もが知る今をときめくIT企業の経営者であると同時に、極道組織の若頭だ。
そうと知りながら尊に縋ってしまったのは、自分だ。
尊にとって、自分はただの駒としてしか価値がないのだからしょうがない。
だったら、尊の言う通り、これからは家ではなく、尊の駒としての役割を果たさなければならない。
だが不思議と、絶望感はなかった。
これまでのように、この天澤家でいるよりも、尊の傍にいられることのほうがずっといい。
尊になら、駒にされようとも、傍に置いて貰えることがどうしようもなく嬉しいとさえ思ってしまっているほどだ。
けれども、なによりも清風を盛り立てて行くことと、世間体や体面ばかり気にしている両親、特に継母である薫が快く了承するとは思えないでいた。