狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
「美桜さん、旦那様と奥様がお呼びです」
「……はい」
楽しい時間もいつしか終わりを告げ、いつものように華道教室を終えて生徒らを見送ったあと、後片付けに追われていた美桜は、使用人の松子《まつこ》に呼ばれて、離れから豪華絢爛な数寄屋造りが見事な母屋の大広間へと赴いていた。
広々とした大広間の床の間には、躍動感ある枝振りを活かして、力強く生けられた梅の花が飾られている。
家元である父が生けたものだ。
それを起点に視線をぐるりと逡巡させてみる。見慣れた風景だ。なのによそ様の家にでもお邪魔しているような気がして落ち着かない。
この家に住んでいるというのに、いつも居心地の悪さを感じてしまう。
きっと、どこもかしこも凝った派手な装飾が施されているからだろう。
なんでも、三年前に隠居した前家元である祖父の弦一郎《げんいちろう》の意向で、質素な床の間や三方の開口部から庭の景色を楽しめるという、松江市にある小泉八雲旧居の居間を再現しているのだとか。
格式張った意匠を嫌い、内面を磨いて客人をもてなすーーという茶人の精神が簡素で自由な空間として形になっていったという数寄屋造り。
素材の良さをそのまま活かすことが大切だとされているらしい。