狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
ーー変なの。数寄屋造りの本来の意味合いから、ずいぶんとかけ離れてる気がするんだけど。
豪華絢爛な部屋の中を見遣りつつ、美桜がそう感じてしまうのも無理はない。
近頃の巣ごもりブームのおかげと、フラワーロスを無くそうという観点からも、企業の間でも生け花を見直そうという動きが強まっているらしい。
そのPRを兼ねて、朝の人気情報番組に出演した愼の、家元譲りの見目麗しい容姿が注目されてからというもの、『華道界のイケメン王子』として度々メディアで取り上げられるようになった。
元々、この辺りを地盤とする代議士の娘だった薫のブランド志向も相まって、両親も兄も、体面や見かけばかり気にして、生徒数を増やして流派の規模を大きくすることしか頭にないように、美桜の目には映ってしまうのだ。
そのせいで何もかもが滑稽に思えてならない。
手入れの行き届いた、樹木や花々で彩られている風光明媚な日本庭園をぼんやりと眺めながら、喉奥から込み上げてくる笑みを噛み砕く。
ーーそんなこと思ったってしょうがない。
いずれこの家から出て行く身である自分には関係のないことだ。
引き取って貰い、何不自由なく育てて貰ったのだから、ちゃんと駒として役に立てるよう自分の役割を果たすことだけ考えなくては。
ふたりの会話に耳を傾けていたはずが、いつしか思考に耽ってしまっていた。
そんな美桜が余計なことに惑わされないよう、自分にいいきかせているところへ。
「もうすぐ、美桜さんが二十歳を迎えるなんて。本当に年月が経つのは早いものよねぇ。あなた」
「ああ、そうだな」
「実は、美桜さんに縁談のお話があるんですよ。少し早いとも思ったんですけれど、先方がどうしてもと仰っているの」
薫のやけに甘ったるい声音が届いたことで美桜は瞬時に現実へと引き戻された。