魔法の手に包まれて
 千夏も恐る恐る足元のスイッチを踏み込み、ろくろを回し始めた。そしてひんやりとした粘度に触れる。力の加え方で、すぐにその形が変わる。ああ、新しいごはん茶碗が欲しかったと思いながら、それを思い描き力の加減をする。くるくると回るたびに姿を変えていくそれが不思議で。さらに売られているような綺麗な形にならないことも悔しくて。何度も何度も手を加えていくと、へにゃっと崩れてしまった。

「あ」

 千夏が声をあげると、彰良は大丈夫ですよと言いながら、手際よくそれを直す。今度は慎重に手を添えて、なんとかごはん茶碗のような形が仕上がった。

「いい形ですね」
 彰良が言うと、糸を使ってその茶碗をろくろから切り離した。
「底に、名前を書いてくださいね」
 彰良は千夏の作り上げたお茶碗を作業机の上に置く。千夏も場所を移動し、竹串使ってお茶碗の底に名前と、そして記念にと思って今日の日付を入れた。

「一月ほど乾燥させてから焼くので、お渡しは二か月くらいかかります」
 彰良は千夏の作った少々歪なお茶碗を受け取りながらそう言った。
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