魔法の手に包まれて
 約束の土曜日の午後。昼食を終えてから、千夏は愛車を走らせて、山奥の窯ラードへと向かった。作品を取りに行くだけだから、本当に行くだけでよかったのに、なぜか手土産を準備してしまう。地元菓子屋の美味しいと評判の焼き菓子。それを、彰良と一緒に食べようと思っていた。

「こんにちわぁー。お約束していた、成田です」
 相変わらずこの工房はトタン屋根とサッシ窓の一軒家だった。十二月も下旬となれば、うっすらと雪も積もっている。本格的な雪になったら、ここまで車であがってくるのは難しいかもしれない。十二月の雪は少ないが、たいてい、年が明けるとドカッと雪が降る。

「先生、今日はわざわざお越しいただき、ありがとうございます」
 久しぶりに訪れたこの窯ラードの工房の入り口には、昔ながらのあの石油ストーブの上に、薬缶がのせられていて、シュンシュンと湯気を立てていた。

「うわ。懐かしいですね、このストーブ」

「ええ、コンセントがいらないから場所を選ばないし。今は自動消火モードもついていますからね。こちらの工房にはうってつけです。それにこのストーブ、焼き芋も焼けるんですよね」
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