魔法の手に包まれて
 二人の視線がぶつかる。
 目元を優しく緩めた彰良は、ふっと笑ってから言葉を続ける。
「だって、先生の言葉一つで、子供たちは笑顔になる。私にはできないことです」

「え、と。あ、その……」
 思いがけない言葉に、千夏はあたふたとしてしまう。自分ではそう思ったことが無かったから。
「あ、はい。ありがとう、ございます」
 と、同時にボロボロと涙が零れ始めた。次にあたふたし始めたのは彰良の方。
「すいません、何か失礼なことを口にしましたか?」

 いえ、と千夏は首を横に振る。
「その、ごめんなさい。ちょっと、いろいろあって」
 彰良は千夏が落ち着きを取り戻すまで黙っていた。それから思い出したように、後ろの棚に置いてあったティッシュボックスを千夏の前に黙って差し出す。千夏は、すいませんと小さく呟いてから、三枚ほどそれを取り出した。目を拭いて、涙を拭いて、そして鼻を拭く。
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