魔法の手に包まれて
 テーブルの上にある千夏の左手に、彰良は自分の両手を重ねた。千夏は驚いて彰良の顔を見る。

「魔法の手です。先生が落ち着くように、と、包んでみました」

 あ、セクハラでしたね。と笑って、その手を引っ込めようとしたため、千夏は右手で彰良が手を下げるところを遮った。

「もう少し、その、魔法の手に包まれていたいです。その、落ち着くまで……」

「でしたら、心の内を言葉にしてみてください。もしかして、誰にも話すことができずに、一人で悩んでいたのではないですか?」

 どうしてこの男は千夏のことがわかるのだろうか。また、涙が溢れてきそうになったが、鼻の奥に力を入れてそれが零れそうになるのを我慢する。

「先生は優しいですね」
< 34 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop