魔法の手に包まれて
「誰にでもこのようなことをしているわけではありませんよ」
 彰良がそう口にすれば、千夏は小首を傾げる。
「先生だから、気になるんです。あなたの頑張りを見ていたら、どうしても気になって。昔の私に似ているから、つい」

 そこから彰良の身の上話が始まる。この工房のために、海外で学んだことは聞いていた。言葉の壁、文化の違い、それから実力の差。ぶち当たる壁はたくさんあった。自信を無くしたことだってある。それでも必死になってしがみついたのは、どうしてもこの工房を守りたかったから、と。

「私も、子供たちの成長を見守りたいんです。でも、自信が無くて」

「それでも先生はまだ二年目です。できることより、できないことの方が多い」

「それも、わかってはいるのですが。やはり、ああいった小さな幼稚園ですと、その、相談にのってくださる方がいなくて。それで、あの子たちの卒園を見送ったら、辞めようかと、そう、思っていました。ですが、その。今、先生から言われた一言で、やっぱり続けようかなとか、そう思ってしまって。きっと、私の辞めたいっていう気持ちも、逃げだったのかなって。なんか、もう、自分の気持ちがわからなくて」

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