魔法の手に包まれて
「その髭面であまり彼女を見ないでくれますか? 彼女が腐りますから」

「はは。昔は腐っていたお前から、そんな言葉が出るようになるとはな。安心した」

「千夏さん。この髭面の暑苦しい男は、今回の主催者の中尾(なかお)大志(だいし)さんです」

「どうも、中尾です。まあ、陶芸しかないけど。ゆっくり見ていって。気に入った作品があれば、買うこともできるから、よろしく」
 中尾は名刺を差し出してきた。それを受け取りながら千夏も簡単に名乗った。
「じゃ、邪魔な髭面の暑苦しいおっさんは、若者たちのデートの邪魔をしないように、さっさと控室に戻るわ」
 じゃな、と陽気に手をあげて去っていく。

「千夏さん。誤解をなさらないでいただきたいのですが、陶芸に携わっている人間が、皆、あのような人間ではないのです」

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