炎暑とバニラ

 コインランドリーを出る。
 ふかふかのタオルは、触り心地が良さそうだった。


「なんでタオル?」

「え?」


 夜道を並んで歩きながら聞いてみる。


「なんでタオル、俺にくれようと思ったんすか」

「ああ──なんか、なんでしょうね、『あつい』だろうなって。あんなところでお仕事してて、せめて終わったら冷たいシャワー浴びて欲しいなって、…‥思ったのかな」


 暑いか熱いかは、分からなかった。


 だけれど、「あんなところ」で直接に火に晒された彼女は──命さえ焼き尽くされかけた彼女は、熱くて痛かっただろうなとぼんやり思う。


 コンビニの灯りに「あ、アイス買っていいっすか」と聞いた俺に彼女が「出します!」と財布を握りしめた。


「せめてものお礼で」

「え、いーよ……あー、じゃあ仕事見つかったらで」

「いえ、アイスくらいは。何味がいいですか?」


 まあ宿泊費として貰うか。アイスくらいは。


「じゃあ遠慮なく。何味でも」


 何でも好き、と答えた俺の目の前で、寺町さんは何個もカゴにアイスを突っ込んだ。

 カップアイスも昔懐かし棒アイスも、少し高めのフルーツ付きキャンディアイスも。


「いや、こんなにいらねーっすよ」

「一日ひとつ……」


 譲らない、という顔をしている彼女が会計しているその背後で、俺もカゴを取ってきてアイスを何個か適当に突っ込む。

 驚き振り向く彼女に「これは俺から寺町さんに」と言い放った。


「なんで」

「いや、ひとりで食うの切ないんで」


 寺町さんはぱちぱちと目を瞬いた。
 それはひどくあどけない表情。
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