炎暑とバニラ

 シャワーを浴びてタオルでガシガシ髪を拭きながら部屋に戻ると、窓際で寺町さんがぼうっと空を見上げていた。


「寺町さん」

「わ」


 びっくりした、って顔で寺町さんは俺を見上げる。


「月見てんの」

「……ですかね」


 なんだか曖昧な返事を彼女はしてから、また空を見上げた。
 そんな彼女に、俺は言葉を続ける。
 なんか、放っておけなくて。

 いや、放っておきたくなくて。


「……お月見する?」

「へ?」

「まだシーズンじゃねえんだろうけどさ」


 そう言って俺は冷凍庫へ向かう。


「どれにしますー?」

「あ、えっと」


 逡巡する彼女に、勝手にメロン味のキャンディアイスを押しつけた。
 俺はチョコミント。

 ベランダの窓を開けて、窓際に並んで座る。
 夏の湿気を含む夜風が、ざあっと吹いた。

 無言で並んで食べる。あっという間に食い終わった俺の横で、寺町さんは丁寧に丁寧にキャンディアイスをぺろぺろ舐めた。

 ピンクの、可愛らしい舌先。


「うまそ」


 つい出た言葉に、ぱっと寺町さんが顔を上げて──えっと、俺、なんて言った?


「あの、おんなじやつ、買って……」

「へ? あ、いーよ、そんなんじゃねえから」


 俺はそっぽを向いて空を見上げた。

 横で、不思議そうにしながら寺町さんがアイスを食っている。

 それは俺の人生にとってとても重要なことにも思えて、俺は内心首を捻った。
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