炎暑とバニラ
その後も押し問答の末、とりあえず飯とコインランドリーに行こうということになり、部屋を出た。
既に二十時前になっていたけれど、まだまだ暑くて──俺は彼女がエアコン無しの部屋で過ごさず済んで良かった、と思うしあまり治安のよろしくない駅前で10日間を過ごさず済んでよかった、とも思う。
ファミレスで飯を食った後、コインランドリーでぽつぽつと彼女から話を聞く。
年齢は俺と同じ二十五歳だということ。出身は東京じゃなくて岡山。
例の火事で仕事を失ったらしい。何の仕事かは言葉を濁されてしまったけれど──
保険金は雀の涙ほどで、入院費に消えたこと。
ウチのマンションには、先払いのマンスリー契約での入居だとのことだった。無職は家もなかなか借りられない。
ちなみに両親ともにもう故人で、兄弟もいないそうだった。
親しい友人は「仕事」関係の人が多く、入院中連絡を絶ってしまったのだということ。
「……彼女たちを見るのが、どうしてもつらくて」
そもそも連絡先ももうないんですけど、と真新しいスマホに彼女は触れて、浅く笑った。