離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
すっかりお腹いっぱいになって海を眺める。春の日差しに照らされた白い船が進んでいく──ああ、眠くなってしまいそう。
出されたワインも美味しくて、つい飲みすぎてしまったかもしれない。徳重さんは運転するためか、当たり前のように一滴も飲まなかったのに、私には勧めてくれて──
(ああ、最近、うまく眠れていなかった、から……)
一瞬微睡んで、慌てて顔を上げると徳重さんの視線とぶつかった。柔らかな、包み込むような目線──目を細めて、どこか楽しげに私を見ていた。
「ご、ごめんなさい、お腹いっぱいすぎて」
「いや。美味かっただろう? あいつ口は悪いが料理の腕は一級なんだ」
「口は悪い、は余計だ」
おざなりな感じでもう開いてしまっている個室のドアをノックして、金山シェフが部屋に入ってきた。
「あ、あの、美味しかったです! ごちそうさまでした」
思わず立ち上がってそうお礼を言うと、思いっきり金山シェフは大笑いして、また私の頭をガシガシ撫でる。
「おい金山」
低い声で徳重さんが嗜めると、金山さんは「へえへえ」と軽い感じで私から手を離す。
「だいぶこの子に対しては、お前アレだな」
「アレとはなんだ?」
「え、自覚ないのかよ。普段の自分思い出せよ。いつも女には塩対応なくせに」
「それと鶴里さんがどう関係あるんだ」
「……まぁいいや。これ、土産のマカロン。あとで食ってな」
そう言って金山シェフが私に黒い紙袋を渡してくれた。中には可愛らしいピンクの箱。
ぱっと顔を上げ微笑んでお礼を言うと、金山シェフは「なるほどな〜」と私の顔を見てニヤニヤとする。
「徳重がこうなるのも納得だわ」
「なにが『こうなる』なんだ? 変だぞ金山、さっきから」
そう言って徳重さんはウェイターさんにクレジットカードを渡した。
私は目を瞬く。そのカードが黒──いわゆるブラックカードだったからだ。プラスチックじゃない、ステンレス……
これでも銀行員。うちの地銀にはさすがにブラックカードはないけれど、大手さんは取り扱っているところもある。
(……公務員って、そんなに余裕あったっけ)
思わず下世話なことを考えてしまう。公務員は副業も禁止されてると聞くし──ああ、やっぱり徳重さん、謎だ。