離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
「お願いします……お巡りさんにこんなこと頼むのは変だって分かってますけど、警察には……言わないでください」
徳重さんは苦いものを無理矢理飲み込んだような顔をしただけで、返事はしてくれなかった。
その代わりに「とりあえず巡回は増やすように手配しよう」と少し掠れた声で言う。
「それから、転職もした方がいい。御母堂の店に嫌がらせのようなことがあれば、全力で対応もする」
「──っ、あ、ありがとうございます」
私は震える声でお礼を言った。
そんな私の手を、徳重さんはぎゅっと握って歩いてくれる。まるで迷子の子供にそうするみたいに。
「家まで送ろう」
そう言って、近くのコインパーキングに駐車していた車に乗せてくれた。またシートベルトをしてくれて……私は泣きそうになる。
特別扱いのようで。子供扱いのようで。
窓の外は日が暮れかけて、紫とオレンジのグラデーションになっていた。入り混じる朱金に目を細める。
「さっき金山からもらったマカロン、忘れていっただろう? だから追いかけて……」
戻って良かった、と徳重さんは運転しながらつぶやいた。私は黙ってそっと頭を下げる。
やがて私のマンションに着いて、徳重さんは家の前まで送ると言って譲らなかった。
「万が一、あいつがいたらどうするんだ?」
その言葉に私は反論できない。だって、それはあり得ることだから。以前のマンションだって、気がついたら突き止められていて──
「でも、ここはオートロックですし」
「オートロックだからといって気を抜かないほうがいい。侵入する手立てはいくらでもある」
エレベーターから降りながらそんな話をして、私は首を傾げた。
エレベーターから降りてすぐの私の部屋のドアノブに、小さな紙袋がかけてある。
「なんでしょうか、これ……」
触れようとした私の手を、徳重さんが押しとどめた。
「触らない方がいい」
そう言って慎重に、彼が紙袋を手に取り、中を見て……思い切り顔を顰めた。
「徳重さん?」
「見ない方がいい。これは俺に預からせてくれないか?」
「え、でも」
何が入っているのだろう、と彼の手元を覗き込む。彼がそれを隠そうとしてくれたけれど、私はばっちり見てしまう。
一瞬、それが何なのか分からなかった。
だって実際に見たことはない。
保健体育の授業DVDで、一度だけ見たことがあるもの。……避妊具だった。それも、使用済み、の……その先端に溜まっている白濁が何を意味するのか。
紙袋が、妊婦向けの雑誌の付録だと、そのロゴで気がついた。──『僕の気持ちを分かってもらえるプレゼント』?
「──ぁ」
気がつけば、私は思い切りえずいて床に膝をついていた。両手で口を押さえて吐き気を我慢する。ぼろぼろと涙が溢れた。