離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
(私が何をしたっていうの?)
もうずっと頭の中にある疑問をぐるぐるとかき回す。何をしたっていうの、私が!
どうしてこんな目に遭わないといけないの? 弱いから?
笑いかけてしまったから?
仕事だったから、それだけなのに!
「わ、私。もうどうしたらいいか──」
紙袋を床に置き、徳重さんが片膝立ちで背中をさすってくれる。私は迷惑も省みず、彼に抱きついてしまう。
「──曽祖父が」
徳重さんが急に話し出す。
「もう随分前に鬼籍に入った曽祖父が、商才のある人だったんだ。そのせいで都内にいくつも別宅やらなんやらを持っていて、そのうちのひとつをリフォームして俺はひとりで使わせてもらっているんだが」
「……?」
話が見えず、私は泣いたまま彼を見上げる。
「良ければ俺の家に来ないか? 使っていない部屋はいくらでもあるし、風呂もトイレも別にできる。玄関も俺が裏を使うから、気兼ねなく過ごしてもらって構わない」
私は目を瞠り、首を振った。
「そ、そんな。これ以上ご迷惑をおかけするわけには……っ。は、母のところに」
「女ふたりだぞ。あいつに襲われたら抵抗できるのか? 心配をかけている方が迷惑だ。ウチならセキュリティもここよりしっかりしている」
強気にそう言い切る彼に押されるように、私は「なら、今日だけ……」と小さく頷いた。
「今日、だけ……お願いします」
不安すぎた。
誰かのそばにいたくて──
「……とりあえずそれで構わない。一泊分だけでも荷物を取ってきてくれ」
私の代わりに、徳重さんがドアの鍵を開けてくれる。
狭いワンルーム、隠れるところはないとは思うけれど念のため、徳重さんが大まかに部屋を確認してくれた。
その間に、私は服と下着だけをバッグに詰め込む。最低限の洗面道具も。
「……おそらく部屋の中までは侵入されてはいないはずだ」
ベランダを確認した徳重さんが、そう言って私の少ない荷物を取る。
「あ、自分で」
「自分を支えるので精一杯なくせに何を言っている? ──少しは甘えろ」
私は優しい彼の声に、思わず疑問を口にしてしまう。
「──な、なんで」
「ん?」
「なんでここまで、してくださるんですか」
私の当然の疑問に、徳重さんは思い切り驚いた顔をした。
「──なぜだろうな?」
質問に返ってきたのは、そんな質問で。
私は目をパチリと瞬いた。
「きみが俺を『お巡りさん』にしてくれたから、かな……」
徳重さんは自分の言葉に納得したように頷いてから、私の手を引いた。
「いこうか」
「……はい」
疑問符でいっぱいだけれど……とにかく今は彼に従った。