離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
そうしてまた彼の車に乗ってたどり着いたのは──瀟洒な高級住宅街の中でも異様な存在感を放つ、そんな日本家屋だった。
ぐるりと取り囲む築地塀、絶妙なバランスの植栽、苔むした立派な石灯籠、大きな池では錦鯉が悠々と泳いでいる──極め付けは、鹿威し! 一般家屋にあるものなの!?
思わず絶句している私を彼はエスコートするように家の中まで案内してくれる。
私のワンルームほど広い玄関は、もはや高級旅館のようだった。……行ったことはないけれど。
「どうした?」
「いえ、あの、広いなあって」
「冬は寒いんだ」
まだ底冷えするかもしれない、と呟く徳重さんに続いて家に入る。
客間だろうか、上品なしつらえの洋間に案内され革張りのソファに座る。
小さな美術館の休憩室のようなその部屋の壁には、誰の絵だろうか、青を基調とした油絵がいくつか飾られていた。
大きな窓の向こうは中庭だろうか。暗闇の中、ソメイヨシノではない、白っぽい桜の木がまだ満開で咲き誇っているのが部屋の灯りでわかった。
「さっきも言ったけれど、客用にしている洋間がある。そこを使ってくれ。風呂もトイレも来客用が近くにあるから」
徳重さんは、座る私の前に自然に片膝立ちで座り、目線を合わせてくれる。
まるで、子供にするみたいに──って、こんな時に余計なことを考えてしまうのは、現実逃避なのか、あるいは徳重さんといる安心感からなのか……
お世話になります、と頭を下げる私に向かって、彼の方は眉を下げて笑ってくれた。
「明日からのことは、また明日にしよう」
徳重さんはそう言って、私の頭をガシガシと撫でた。
「今日は大変だったな。──っと、明日の朝早くに人が来るけれど、気にしないで寝ていていいからな」
「お客様ですか? 私、お邪魔なのでは」
「そんなことはない。なんというか……そうだな、この家の掃除なんかを任せている女性だ。小さい頃からの付き合いで。明日も掃除をするために来るだけだから」
女性……?
私は目を瞠る。