離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
1(風香視点)
 繰り返し見る夢がある。

 初めての恋の夢だ。十七歳の私に起きた出来事を、忠実に再現した映画のような、夢。

 それは苦い思い出であり、同時に甘く切ない思い出でもあった。




『大丈夫ですか!?』


 お巡りさん、に助けられたのだ──と気がついたとき、私はぶるぶると震えながらただ彼の紺色の制服にしがみついていた。

 恐怖で引き攣ったような呼吸を何度も繰り返す。涙が溢れて止まらない──

 学校からの帰宅中のこと。
 夕方と夜のあわい。街灯に光が灯されてすぐ。

 何度か通学の電車で見かけたことのあるおじさん──当時はそう感じていた、今思えばまだ三十歳前の男性だったのだけれど──が、私のことをつけてきていたのだ。

 挙句の果てに、意味の分からないことを延々と捲し立てて、私の手首を掴みどこかへ連れて行こうとした。ぬるりと汗で濡れた男の手のひら──

 そこでようやく、危機感の薄い私ですら「これはまずい」と気がついて、必死で首を振り手を振り解こうとした。


『大丈夫だよ風香、おいで』


 気持ちの悪い、甲高い猫撫で声だった。


(なんで私の名前を知ってるの!?)


 叫びたかったのに、恐怖で声帯が錆びついたかのように叫べない。

 そこへ通りかかったのが──彼だった。


『おい! 何をしている!?』


 きぃ、という自転車のブレーキ音。
 ガシャンと自転車が倒れ、それも構わずに私と男の間に割り込んできた大きな背中──紺色のそれがお巡りさんの制服だって気がつく前に、男は夕闇のなかに駆け出していた。


『貴様! 待て……っ』


 そう叫ぶお巡りさんの背中に、私は必死でしがみつく。
ぶるぶる震えながら、ひとりになりたくなくて、その頼もしい体温に安堵して。

 お巡りさんが、ふっと身体から力を抜いて、身体を反転させた。それから私の手を握り、頭を何度も撫でてくれる。


『もう大丈夫です』


 そう、穏やかな低い声で──
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