離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~

 鶴里さん……いや、風香が大きな目を何度も瞼で覆う。

 すぐに彼女の陶器のような頬が紅潮して、耳と首まで真っ赤にして眉を下げた。

 明らかな恥じらいの表情に、胸がざわつく。嫌な騒めきではない。むしろ──好ましい、とはっきり思った。


 なぜだろう。


 俺はあまり女性が得手ではない。交際したことがないとは言わないけれど、自分のテリトリーに他の誰かが入ることが異様に嫌だった。

 ……名前を呼ばれることすら。

 なのに彼女にはそれを許してしまう。

 違う、許すのではなくて「そうして欲しい」と思ってしまう──一体これはなんの感情なんだ?


「え、いし……さん」


 風香が目線を落としたまま俺の名前を再び呼んだ。恥じらいがちに伏せられた目線、長く上向きのまつ毛が僅かに揺れて美しい瞳が見え隠れした。その目元に触れたく思う。


「──荷物を」


 俺は衝動を押さえつけるように声を捻り出した。


「荷物を取りに行こう」


 俺はまだ混乱している彼女を押し切るように、あくまで決定事項のように言う。
 彼女があのマンションに帰ってしまわないように。


「マンションの解約は手伝う。すぐにでも手続きをしよう」


 風香がゆっくりと頷いた。

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