離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
「きみの本籍地は実家か?」
「あ、はい、国立です」
「分かった。弁護士に手配させる」
「……ん?」
婚姻届の話だ、と俺は彼女のマンションで荷物を積めるのを手伝いながら答えた。
「あ、婚姻届……に、必要なんですね?」
「郵送よりは早いだろう。用意でき次第入籍しよう」
風香が少し不思議そうに俺を見つめている。
「どうかしたか?」
「いえ……あっ」
風香が手を叩く。
「あの、ご家族とかにご挨拶は……」
「……俺の方はいつでもいい。きみのお母様には早めの方がいいたろう。今日明日はお忙しいのかな」
「いいんですか? 徳重……っ、え、永嗣さんのおうち、そのあたり厳しいのでは?」
「親戚連中は口煩いが、家族は個人主義なところがあるから。どうせ予定も合わないしな……」
風香がスマートフォンの画面を見つめ、しばらく操作したのちに「明日、いいそうです」と申し訳なさそうな顔をして笑った。
「どうした?」
「いえ、──なんか、母が。思ったより喜んでくれてる、みたいで……」
ごにょごにょと言葉が消えていく。
要は離婚前提の契約結婚だというのが、純朴な彼女にとって重荷なのかもしれない。
本来ならば、彼女がストーカーなんかに悩まされていなかったら……
彼女はこれから愛する人を見つけ、幸せな結婚をしていたはずだ。
本人に自覚がないのがどうにも不思議だが──風香は綺麗だ。容貌だけでなく、心根まで柔らかく優しい人だと思う。
せめて幸せにしたいと思う。
期間限定かもしれないが、この僅かな時間だけでも──鶴里風香という女性を、誰よりも幸せにしたいと、そう強く思ったのだった。