離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
永嗣さんに連れて来られた超、高級中華レストランは……なんかもう、色々想定外だった。
個室に通されて、中華だから例のくるくる回るテーブルかなと思いきや、彫りが入った黒檀の四角いテーブルが淡い間接照明のなか輝いていた。丸い窓からは赤い夕陽に染まりつつある街並みが一望できる。
すぐに食前酒が運ばれて来たけれど、それは私の分だけ。運転のためか、永嗣さんはノンアルコールで通すようだった。……なんだか申し訳ない。
前菜は蒸し鶏や鴨ロース、海老のソース和えといった割と見かけるものだったけれど……ひとつひとつが丁寧に作られているのがひと口舌に乗せただけで分かった。付け合わせの野菜はどれも花や鳥のように飾り切りしてある。
「風香」
永嗣さんが嬉しそうに私の名前を呼んで、続けた。
「美味しそうに食べるよな」
「……あ」
思わず赤面。
永嗣さんはにこにことして箸を動かす。
「きみが嬉しそうだと俺も嬉しい」
すりおろした海老芋と蟹のふんわりしたお饅頭が入ったフカヒレスープを私はこくりと飲み込む。美味しいはずなのに、味が良くわからなくなっていた。
なんでそんなこと、言うんだろう。
食事が終わる頃──ふと気がついたように永嗣さんが言う。
「そういえば、高所恐怖症だったりしないか?」
「え? ええっと、特にそんなことは」
「飛行機は?」
「飛行機ですか……?」
私は首を傾げた。
「高校の修学旅行で乗ったことがありますが……平気でした」
そうか、と永嗣さんは頷く。
「良かった」
「……?」
一体何のことか、と思っていたけれど。
つまりこういうこと、だったのだ。
食後、またもや永嗣さんの運転にウトウトしてしまった私が目を覚ますと、暗闇の中に「調布」の看板の文字が見えた。調布に一体、と訝しんでいるうちに車は駐車場に止められ、あれよあれよと言う間に私は──機上の人となっていたのだ。ぐんぐん街の灯が小さくなっていって──
「セスナって!」
私の声に、永嗣さんは楽しげに私を見た。
私はその横で、ちょっと緊張して三点タイプのシートベルトをぎゅっと握る。椅子は白い革張りで、座り心地はとてもいい。エンジン音は少し大きいけれど、会話は普通にできる。ちょっと声は張るけれど。
眼下の夜景がどんどん小さくなっていく──私は子供みたいにはしゃいでしまいそうにのるのをぐっと耐えつつ、永嗣さんの顔を見上げた。
「でも、どうして急に」
私の質問に、薄暗いセスナの照明のなか、永嗣さんはふっと笑う。
「これを──見せたくて」
永嗣さんの視線の先──窓の外。
「……わ」
思わず言葉を失う。