離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
リビングに案内すると、彼女は戸惑いながらソファに座る。
「緊張しないでくれ。きみの家でもある」
「そ、れは……はい。そのうち」
でも慣れるのかな、と風香が呟く。言外に「離婚するまでの間に」というニュアンスがあったように感じて、俺は針で刺されたかのように胸が痛んだ。
その気持ちを誤魔化すために、俺は食器棚からワイングラスをふたつ、ソファの前のローテーブルへ持ってきた。
恐縮する彼女の前で、ソムリエナイフでキャップシールに切れ込みを入れ、剥がしていく。以前、金谷にもらったソムリエナイフ。コルクを抜くと、少し重めで芳醇な、どこかチョコレートを彷彿とさせる香りがした。金谷の店でもフルボディを美味しそうに飲んでいたから好きなのかと選んでみたものの──どうだろう、気に入ってくれるといいのだけれど。
俺は風香の横に座り、お互いグラスを軽く上げた。
「いただきます……!」
風香はグラスに注がれたワインをまるでイエスからそれを与えられた弟子のように恭しく口に含む。
ワイン──イエスと人の子らとの『契約の血』だったか──そう、『契約』。
恋愛結婚だろうが、俺たちのように何か理由があっての結婚だろうが、それが一種の「契約」であることに変わりはない──と、俺は思う。だから、これから彼女とする婚姻は、他の「結婚」となにひとつ変わらないもので──ある程度の期間が決められていること以外は。
とはいえ、本気で手を出すつもりはなかった。そんなことを彼女に強要するつもりも。
身体目当てなんかじゃない。
ただ守りたかった──だけのはず、だったのに。
風香がワインを口に含む。
美味しそうに嚥下する──白い喉が、こくりとワインを飲み込んで。
「おいしいです」
風香が笑う。俺を見上げて、その優しい目を細めて唇を動かす。「ありがとうございます」と。
ふと、理解した。
唐突な理解であったけれど、同時に腑に落ちた。なぜ俺が彼女を守りたかったのか、連れて帰って来たのか、結婚までしてそばに繋ぎ止めようとしたのか──好きだからだ。
ひとりの女性として。