離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
どうして? いつ?
初めて会った時、彼女は「守るべき子供」だった。再会した時だって、その延長線上にいた。だけれど、どの瞬間か──その意識が変わった。少しずつ、あるいは唐突に。
自分もワインを口に運びながら考える。横では風香がニコニコしていて、それがたまらなく幸せだった。
彼女が安心して俺の横にいることが誇らしい。だけれどもどかしい。俺は風香が欲しい。
(……離婚しなければいい)
仕事なんか辞めさせて家に閉じ込めてしまいたい。その間に、あらゆる問題を解決して、苦しめた人間には相応の目に遭ってもらって。
その期間中に──俺のことを好きにさせてみせる。ただの「お巡りさん」ではなく「ひとりの男」として。
名実ともに、彼女を俺の妻にする。
「──永嗣さん?」
風香が俺の顔を覗き込む。
「大丈夫ですか? お疲れでしょうか」
空のグラスを彼女がローテーブルに置いた。俺はそっと彼女の髪を撫でる。
風香が気持ちよさそうに、撫でられるのが好きな猫みたいに目を細める。人なつこい、しなやかな白い猫。可愛いと愛おしいとがぐちゃぐちゃになった嗜虐にも近い感情が全身で暴れる。
「風香」
「なんでしょう」
「キス、してもいいだろうか」
風香はポカン、とした後──一気に頬を紅潮させた。目線を思い切りうろつかせ、モジモジと両手の指を絡める。
「あの、でも、その」
「──嫌なら」
焦って失敗するつもりはない。
ゆっくりでいい。彼女が俺に身を預けるまで、じっくりと堕としていけばいいのだから。
けれど、風香はパッと顔を上げ「嫌じゃないです!」と俺を見つめる。
「絶対に、嫌とか……そんなわけ……ただ、永嗣さんは、私を子供扱いされているような、そんな気がしていたので……」
身長差的に、どうしても上目遣いに見えて。
可愛すぎて、思わず額にキスを落とす。
「悪い。困らせた」
「そ、んなこと……」
真っ赤になる風香に、今更ながら彼女が真っ新なのだと気がつく。高山に積もる新雪のように──男と食事に行くのすら俺とが初めてだったのだ。