離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
私はぱちりと目を覚ます。
十七歳ではなく、今現在、二十五歳になった大人の私として。……まあもうすぐ二十六歳になるのだけれど。
「もう一回くらい、近くで徳重さんの声を聞きたかったな」
私は四月後半の朝日が差し込むクリーム色のカーテンを見つめながら、夢の感想をぽつりと呟いた。
未だに彼が死ぬほど好きって、自分でもおかしいんじゃないかと思う。
……ついでに、もうひとこと。
「……今日明日でさすがにこれ、片付けなきゃなあ」
都内にある地方銀行の支店、その窓口担当である私。そんな私のお給料で借りられるワンルームのうち、できるだけセキュリティがしっかりしているこのマンションに越してきたのが先週の土曜日。
今日はそれから約一週間。金曜日だけれど、色々な手続きのために有給をもぎ取ったところだ。急な引っ越しだったため、片付けがなかなか進まなくて。
急に引っ越しになったのには、理由があるのだけれど……
「もう"あの人"、来ないといいな」
不安で少し心臓が痛い。
どうしたって、どうせ銀行には来るのだろうけれど……
"あの人"の粘着質な視線を思い出し、ぶるりと身体が震えた。……そもそもどうやって、前の私のマンションを探し当てたのだろう……?
「……っ、切り替え、切り替え!」
ぱん、と両頬を軽くはたく。せっかく平日が休みになったのだ、ネガティブになってゴロゴロしていてはもったいない。
そうは思うけれど。
「いつまで逃げなきゃいけないのかな」
つい、弱音が口から零れ落ちる。
私は何か、悪いことをしたのだろうか?
それとも「変な人」を惹きつける何かを持っているのだろうか……
(徳重さん)
また会いたいと思ってしまうのは、初恋にいつまでも引きずられているせい? それとも弱気になっているせい?
「両方、かな……」
自嘲気味なひとりごとが、段ボールだらけのワンルームに響いた。