離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
だって、砂田さんは恐らく「想像の私」に執着してる。砂田さんの想像のなかの私は、恋愛の駆け引きをしつつも砂田さんに従順で彼を愛してて、きっと食べても太らなくて指も細くてトイレにも行かない。
人間じゃない。偶像だ。
係長は紙袋を持ってマゴマゴしている。私は眉を下げて「──お返ししていただけますか?」とつぶやいた。足が震えて、申し訳ないけれど、とても自分では行けそうにない。係長は頷く。
「申し訳ありません、ご迷惑を……」
「迷惑かけてるのは砂田! 風香ちゃんが謝ることじゃないよ」
「そうだよ、鶴……徳重さん。ごめんな、勢いで受け取っちゃって」
返してくる、と裏口を出て行く係長だったけれど、すぐ戻ってきた。
「いなかった。明日、砂田鉄鋼に行く用事があるから渡しておくよ」
「お手数おかけいたします」
「だから風香ちゃんのせいじゃないってば」
原さんと係長の優しさに目が潤む。
「だいたい、次長も支店長もおかしいんだよ。あの変態男を風香ちゃんに押し付けよう押し付けようって」
「ふたりとも、砂田鉄鋼様とは親しいからな……」
「親しいとかそんなレベルじゃないですよ、係長! 明らかに異常。もしかして、あの噂、本当なんじゃ……」
「噂?」
聞き返した私に、原さんは「こっそり」って感じで教えてくれる。
「不正融資。支店長と次長は個人的に見返りもらってるんじゃ、って……だから砂田に逆らえないの」
「……!」