離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
「永嗣さん! なんでお父様が都知事さんだって言ってくださらなかったんですか!」
さすがに帰宅した永嗣さんに玄関先でそう詰め寄ると、永嗣さんは一瞬ぽかんとした後に「忘れていた」と首を傾げた。
「悪かった。きみを守るために父の立場を利用はしたけれど」
ぱたぱたと長い廊下をこれまた長い足で歩きながら永嗣さんは淡々と言う。ぐいっとネクタイを緩めて、本当に何でもないことのように。
「でもっ、あの……」
私は彼を追いかけながら、そう口を開く。
そうして「ちゃんとご挨拶を……」と言いかけて、ハッと気がつく。
どうせじきに離婚するのだ。
わざわざ紹介するまでもないと判断したのだろう。
「……いえ、すみません」
「言ってくれ」
永嗣さんは広い洗面所で振り向いた。そして眉を下げて私の目をじっと見る。
「きちんとまだ紹介できていないことに関しては謝る。すまなかった。ああいう人だし、母もいま海外にいて──調整しきれなかったんだ」
「はい」
できるだけ気にしていないような顔で笑ってみせると、永嗣さんはなんだか辛そうな顔をした。……気のせいかも、しれないけれど。
「気にかかることは何でも言ってくれ」
「何もありません。差し出口を」
「そんな顔をしておいて?」
私はパッと頬に手を当てた。
(か、顔に出てた!?)
嫌だな、なんか、アピールしてるみたいになっちゃってないかな……
永嗣さんは洗った手をタオルで拭いて、それから「ふむ」って顔で私を覗き込む。
「きみはなかなか素直になってくれないな。いや、今回のことは俺が悪いのか」
「永嗣さん?」
「夫婦なのだから」
永嗣さんは私の髪をさらりと撫でた。
「もっと素直になってくれていい」
思わずぱちりと瞬いた目のすぐ横に、柔らかくキスが落ちてきた。
「──っ!」
「可愛い」
くっ、と喉で笑う大人の男の人、な笑い方。永嗣さんは何を思ったのか、ひょいと私を抱き上げる。