離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~

 夜になるとスタッフさんがやってきて、お肉やカットされた野菜、それからビールサーバーに赤ワインまで置いて行ってくれた。
 テラスはランタンと、室内の間接照明の灯りでぼんやりと明るい。肌寒いせいか、虫の声はが時折する以外は、しんとした森の静寂に包まれていた。


「ソフトドリンクはキッチンの冷蔵庫だそうだ。何か飲むか?」

「ええっと、じゃあそのワインで……」


 スタッフさんが持ってきてくれたワインを手に取ろうとすると、そっとその手を握られた。


「きみは今日は座っていてくれ」

「? でも」

「いいから。いつも家事をありがとう」


 永嗣さんはそう言って、テラスにあるふかふかのクッションがついたキャンピングチェアに私を座らせる。三人くらい座れそうな、大きな木製のものだった。ひざかけまで丁寧にかけられて、私は目を瞬く。

そんな私を尻目に、永嗣さんは手際よくワインを注ぎ、グラスを私に差し出した。

 チーズもあったみたいで、何種類ものチーズが乗ったお皿まですぐ横の机に置いてくれる。


「あ、ありがとうございます」


 恐縮して頭を下げる。家事、といっても百さんが来られる日は半分以上彼女にお願いしているし、永嗣さんは永嗣さんで自分のことは自分でやる人だからかなり楽をさせてもらっているのだけれど……


「いや、なにかと任せきりだ。たまにはお礼をしないと」


 そう言って、永嗣さんはお肉をグリルで焼いてくれながらビールジョッキを私に向かって掲げた。私もグラスを軽く上げてグラスをぶつけない乾杯をする。ワインを口に含むと、芳醇な重みに思わず目を瞠る。


「美味し……!」

「良かった」


 永嗣さんは水みたいにビールを飲んで言う。前から思っていたけれど、お酒強いよなあ……
そうしてお皿に焼いたお肉や野菜をかいがいしく乗せてサーブしてくれて。

 すっかりお腹いっぱいになった頃、永嗣さんが用意してくれたのは串刺しにしたマシュマロだった。


「わ、わ、ちょっと憧れていたんです、マシュマロ焼くの!」


 そう言うと、永嗣さんは私にマシュマロを焼かせてくれた。あちあち、と舌を火傷しそうになりながら焼きマシュマロを食べる。


「うう、幸せです……!」


 永嗣さんがぴたりと動きを止めた。


「? 永嗣さん?」

「……風香」


 永嗣さんが私の横に座り、頬を撫でてくる。


「もう一度言ってくれないか?」

「えっ、と?」


 私は首を傾げつつ、言葉を繰り返した。


「幸せです……」

「そうか」


 ふっ、と彼は頬を緩めた。


「俺もだ」

「……!」


 ぼん! って効果音付きで顔が赤くなったんじゃないだろうか?

 私はもぐもぐとちょっとずつマシュマロを食べる……ああもう、反則だよねその笑顔は……!
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