離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
7(風香視点)
「ああ、鶴里くん。来たか。矢田くんから聞いたかな? 次の会食、君もご招待いただいたんだよ」


 永嗣さんとの暮らしにも少しずつ慣れてきた、梅雨の終わり頃──私は支店長室に呼び出されて、そう告げられた。


「……え?」


 会食? と首を傾げる私に、支店長は続ける。


「そうだ。砂田鉄鋼様との」

「──!」


 私は目を瞠る。
 てっきり、八月末に決まった退職のことについての話だと、そう思っていたのに……!


「砂田専務はね、きみがバツイチでも構わないと、そう仰ってくれて──」

「待ってください!」


 私は必死に言い募る。


「何の話ですか!」

「あー、君の話だよ。全く……」


 支店長は少し苛ついたように鼻の頭に皺を浮かべた。


「いいかね、あれだけ想われていて別の男と結婚するなんて何を考えてるんだ?」

「わ、私は砂田専務のことが好きではありません……っ」

「そういう問題じゃない!」


 支店長はどん、と机を叩く。


「君の態度ひとつで、この支店の行く末が決まるんだ! わかるか?」


 舌打ちまでする支店長に、私は心臓を砂やすりでもかけられたかのような気分になってしまう。


(それにしても、どうしてこんなに執拗に……)


 結婚までしているのだ。砂田さんはともかく、支店長次長は諦めてくれると思っていたのに……

 たしかに、もし砂田鉄鋼関係の契約が全て無効になれば小さな損害とは言えないかもしれない。けれど、でも、そんな状態にしてしまう経営自体にも、問題が──まるで、それだけじゃないような……

 はっ、と私は支店長を見た。支店長はイライラと私を見返す。
 まさか。
 支店長は……もしかしたら次長も。
 砂田鉄鋼から、本当に個人的に見返りをもらっているのでは……

 まさか、あの噂は本当なの?

 違和感へのピースが嵌まっていく。

< 57 / 84 >

この作品をシェア

pagetop