離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
「だいたいなあ」
支店長の声に、はっと我に返った。
「君の夫、公務員だっけ? それより砂田鉄鋼の時期社長夫人のほうがよっぽど」
「良くありませんっ!」
私は叫んだ。
「私は夫といたいです! たとえお金がなくっても、ふたりで笑えあえてたら、それで」
永嗣さんといられるのなら。
彼が手に入るのなら。
他に、何もいらない──!
ふうふうと肩で息をする私を支店長が鼻で笑ったとき、ふ、と背後のドアが軋む音がした。革靴の足音も──振り向こうとした私を、誰かが抱き寄せる。
安心する体温。
嗅ぎ慣れた香り。
見上げなくとも分かった、永嗣さんだって。
「──どうして?」
ぽかん、とする私に、永嗣さんは穏やかに唇を上げた。
「な、何だね突然!」
支店長の慌てた声に、永嗣さんは低く──冷たい声で言い放つ。
「他人の妻に不貞を薦めるようなことを言わないでくださいませんか」
「──つ、鶴里くんのご主人? なんだか知らないが、部外者が入っていい場所では」
「鶴里ではありません。徳重です、彼女は」
永嗣さんがそっと私から離れる。それから支店長に微笑みかけた。唇だけで、目は全く笑わずに──
「自己紹介が遅れました。風香の夫の、徳重です。警視庁捜査二課に勤務しております」
「そ、そうかね。それがどうか」
なぜか急に狼狽する支店長に向かって、永嗣さんはA4サイズの紙を突きつけた。
「逮捕状です。砂田鉄鋼への不正融資、まさか心当たりがないとは言いませんよね?」
私はポカンと永嗣さんを見上げた。
支店長の唇の端っこが、戦慄いた。