離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
場所を聞き出しスペアキーを受け取ると、すぐさまそのマンションに向かう。怒鳴りつけられながらも捜査本部にヤツの住所を伝えた──三鷹市。舌打ちを堪えながらマンションに辿り着くと、すでに警察車両と思われるセダンが停車していた。
「っ、徳重警視! もうあとは我々に任せて──」
「徳重! 気持ちは分からんでもないが、お前二課だろう、何暴走してるんだ」
俺はちゃりっと鍵を握りしめ、無視をしてマンションのエントランスに入った。
「おい!」
数期上の捜一課長が、ぐいと肩を引く。俺はエレベーターのボタンを叩きつけるように押しつつ「平成三十一年の」と答える。
「警察庁丙生企発第七十一号通達に『加害者が被害者等に危害を加えることが物理的に不可能な状況を速やかに作り上げ、被害者等の安全を確保することが最優先となる。』とありますよね」
「都合のいい文章だけを引用するな! お前が暴れてもいいという意味じゃない」
「官僚なので都合の良い方で解釈します」
「ブチ回すぞてめえ」
捜一課長が地元なまりの荒い口調で俺の胸ぐらを掴み上げようとしたときには、俺は既に鍵穴に鍵を突っ込んでいた。
「チッ」
捜一課長は諦めの舌打ちとともに部下に目線を送る。
そっとドアを開いた。1LDKの単身向けマンション──暗い玄関に、廊下の明かりが射し込む。
暗い中、寝室らしき部屋から、微かに漏れ聞こえる女性の声がした──明らかに情事中の声──!
カッとして、同時に気がついた。
風香の声じゃない。
……共犯が? 一体何が?
混乱する俺に「嫁さんの声か?」と捜一課長が俺を見る。首を振ってあたりを見回して──ゾッとした。暗順応であたりが見えるようになっていた。壁や天井を見上げ、ぐっと息を呑む捜一の捜査員の声がした。
一面、風香の写真だらけ。
明らかな隠し撮りもあれば、どう入手したのか、カメラに向かって微笑んでいる写真も。
気管支が痛むほどに息を吐き出す。
「……踏み込みます」
捜一課長もさすがにもう反対はしなかった。
靴のまま廊下に上がり込み、女の声が響く寝室のドアを大きく開く──
「きゃあっ!」
「な、なんだ、誰だ……っ!?」
そこにいたのは、ベッドに横たわる砂田孝雄と、その上に乗っていた黒のベビードール姿の女性。