離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
そのまま殴りつけられるのか、蹴られるのかとぐっと身体をこわばらせたとき──ごわん、と嫌な金属音とともにマンションのドアが開いた。革靴がフローリングを踏み締める音──
「風香!」
聞き慣れたその声に、私は目を瞬く。
そうして目の奥が熱くなるのを覚えた──来て、くれた。
分かってた。
来てくれるって──だから、私は強くあれた。
少し前の私だったなら、きっと泣くばかりで抵抗らしい抵抗なんか、何ひとつ、できなかっただろう。
「永嗣さん……っ!」
「植木博正! 彼女を離せ!」
植木はブツブツと言いながら、私の髪の毛を引っ張り、無理矢理立ち上がらせた。
「く……っ」
「来るな! 来たらこいつ殺すぞ!」
そうして僕も死ぬ! と包丁を振り回して叫ぶ植木に、永嗣さんは「無駄な抵抗は止せ」と低く言った。
「もう逃げられない」
「だから死ぬんだよ! 風香を連れて!」