離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
永嗣さんの表情が、一気にぐしゃぐしゃになる──けれどすぐに彼は唇を引き結び、再び植木博正を睨みつけ、そうして地を這うような低い声で言った。
「風香に、俺の最愛のひとに」
私はぼろぼろの笑顔のまま、その言葉を胸に刻みつける。
最愛──
「永嗣、さん……」
思わず彼の名前を呼ぶ。
永嗣さんはぐっと眉を寄せ、植木を睨みつけたまま続けた。
「妻に──傷ひとつつけてみろ。地獄の果てまで追いかけてお前を殺す」
「な、なにが最愛だ! 風香は僕のものだ! 僕のものなんだぞ!」
運命なんだ! そう叫ぶ植木に「ふっ」と永嗣さんは笑った。
「知らないくせに。彼女がベッドでどんなふうに甘えるか、愛でられて疲れ果て、眠る顔がどんなに可愛らしいか、どれだけ甘やかな声で名前を呼ぶか──なにひとつ、お前は知らないくせに」
かっ、と植木の顔が赤く染まる。
「黙れ黙れ黙れ黙れ──! 思い出したぞ、お前、あの時の警察官か! お前が風香を唆したんだな!? お前から殺す、殺してやる!」
植木が私の髪をばっと離して、永嗣さんに向かって大きく包丁を振りかぶる。
「避けて──!」
私は両手を彼らの方に伸ばし、ただ叫ぶ。
永嗣さんは──笑った。