離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~

 私は両手で頬を包み込んだ。嬉しくて恥ずかしくて、……それからちょっと悲しい。

 シートベルト、つけてもらえて、なんていうか特別扱いされているようで嬉しい。

 でも、その特別扱いはおそらく「子供扱い」なんだろうと思う。あの時、十七歳の時と変わらない、庇護すべき対象としての子供。

 それが切なくて、でもそんな自分に苦笑してしまう。

 そんなこと最初から分かってることなのにね?



 スムーズな運転の車内では徳重さんがそつ無く会話をしてくれて、私は聞かれるがままにあの後どう過ごしてきたかを話した。

 高校を出て、短大を出て、地銀に就職して、今は都内でひとり暮らし。

 あまりにも徳重さんが聞き上手だったから、ついつい話しすぎちゃって……

 気がついたら徳重さんの車は、海沿いのレストランの駐車場に停車していた。

 東京湾を臨む埋立地だ。近くにはかつて離宮だった公園や、アートギャラリー、それに大きな劇場がある。

 三台だけ停められる駐車場の向こうには、午後の明るい太陽に照らされたまばゆい春の海。波は紺色、藍色、鮮やかなシアン……潮風が、髪を揺らして……


「……あの、徳重さん」

「どうした? 帰りは送るから心配しなくても」

「そ、そうじゃなくてここ! よく雑誌とかで見かけるレストラン……!」


 私は車の前で棒立ちになったままその建物を呆然と見上げた。

 確か、テレビ取材は完璧にお断り。ラグジュアリー系の雑誌のみ、たま〜に取材を受ける超高級レストラン……!


(背伸びして買った雑誌に載ってた……確か、ランチだけでそこそこな旅行ができるお値段、だった、よね……?)


 それも、一日三組限定。もちろん予約がないと絶対に無理……


(ど、どういうこと?)


 ううん、ていうか、それどころじゃない。
こんなところでランチなんか、支払い絶対に無理……!

 徳重さんは真っ青になっているだろう私を不思議そうに眺めたあと、気がついたように微笑んでくる。


「ああ、個室だから服装は気にしなくて」

「い、いえあの、違うんです。すみません」

 私は俯く。ちなみに服装は白のスプリングニットにジーンズ、スニーカー……ここ、ドレスコードとかないのだろうか?


「大変申し訳ないんですが、私、その、あの、……ここ、ノーマルなクレジットカード、使えます、よね……?」


 こ、こうなったら分割で支払うしかない!
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