離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
柚香はぷにぷにの腕を私に伸ばして、パパを全力で拒否して「まま!」と舌足らずに叫ぶ。
悲しそうな永嗣さんの顔に、思わず吹き出した。
「寝起きで機嫌が悪いだけですよ」
「……そうだろうか。柚、ほら、変な顔してやるから」
永嗣さんの変顔(柚香が生まれるまで、まさか永嗣さんがそんな顔すると思っていなかった)にも柚香は「まま!」と譲らない。
柚香を受け取り、抱き上げるとぎゅうっと抱きついてくる小さな宝物。愛おしくて仕方ない。
「柚がものすごいドヤ顔で俺を見てくるんだが……」
永嗣さんがブツブツと言う。
「拗ねてます?」
「いや? もうこうしたらいい」
永嗣さんはそう言って、私と柚香ごと抱きしめる。柚香は何がおもしろかったのか、キャッキャとはしゃいだ。
と、そこにヒロくんが「あら!」と目を瞬きながら入ってくる。ヘアメイクのスタッフさんも一緒だ。
「なに家族でいちゃついてんのよぉ! おじさんも混ぜなさいよぉ!」
「ヒロさん混ざらないでください。奥様、こちら御髪によろしいでしょうか?」
はしゃいで混ざろうとしたヒロくんを注意するヘアメイクさんが持っていたのは、赤い一輪の薔薇。
永嗣さんは私から離れて、ヘアメイクさんに「すみませんが」と声をかける。
「それ、俺が彼女につけても構いませんか?」
「? ええ、もう刺すだけなので」
ここに、とアップした髪に永嗣さんが薔薇を刺す。真剣な面持ちで、真っ赤な、一輪の薔薇を。
「愛してる」
そっと耳元で彼が言う。
それは一輪の薔薇の花言葉。