離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
徳重さんはきょとんとしたあと、思いっきり眉を下げた。


「きみな、俺が誘ったんだぞ? というか半分無理矢理連れてきたのに」

「はあ……」

「そんな状況で食事代を出させるような男に見えるのか?」


 ちょっと怒っているようにも見えた。私は慌てて両手を振る。


「す、すみません! あの、本当にいいんでしょうか?」


 すっかり恐縮して頭を下げた。


「男性にこんなふうに食事に誘っていただくのなんか初めてで、その、どう対応したらいいか分からなくって」


 嫌がってるのに"あの人"からしつこく誘われたことは何度もあるけれど、普通に食事のお誘いを受けたのは生まれて初めてだ。

 徳重さんが驚いた顔をして、まじまじと私を見つめる。視線が絡んで、私は目線を逸らした。だって、心臓がきゅぅってなる。


「きみが?」

「……?」


 不思議そうな声に顔を上げた。


「こんなに綺麗なのに? きみの周りの男は見る目がないんだな」


 呆れたようにさらりと言ってから、徳重さんはレストランの方へと歩き出した。

 私は、というと……

 頬どころか耳たぶまで熱い。首も、それから心臓も……!

 私はぎゅっとスプリングニットの胸を握りしめた。綺麗、綺麗って言われちゃった、綺麗って……!


「鶴里さん?」


 振り向いて私を呼ぶ徳重さんのところに、私は急いで歩き出す。どうか、顔が真っ赤なの、今日がちょっと暑いせいだって思ってもらえますように……!
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