婚約破棄され辺境地へと追放された私ですが、ワケあり第二王子に溺愛される運命だったようです!
ロッテは慌てて口元を拭うが、涎は出てはいなかった。からかわれたのだと分かりレーヴェを睨むが、彼はそんな彼女の様子も面白いと言うように口角を上げただけだった。
どんなにレーヴェを睨み付けても空腹が収まるわけでもない。ロッテはレーヴェから用意された食事に視線を戻し、いつものように神への感謝の言葉を呟くと食事に手をつける。
「美味しい! このスープ、どうしてこんな甘味があるの?」
根菜と少しの干し肉を調味料で煮ただけのはずのに、今まで食べていた屋敷の料理人の作ったスープよりも何倍も美味しく感じていた。
レーヴェは決して特別なことはしていなかったし、どちらかと言えば大雑把に作られた料理のはず。それなのに……
「このチーズのパンも、すごく私好みの味だわ!」
「良かったな、スープもパンもたくさんあるから好きなだけ食べるといい」
ロッテが今まで食べてきたのは柔らかな白いパンばかりだった、手に持っているのはザラザラな表面の固いパンなのに彼女にはそれが何倍も美味しく感じている。
空腹だった、それも理由の一つかも知れなかったが。今ここでレーヴェと向き合うことで、あの屋敷で一人で食べる食事がどれだけ味気なかったのかを思い知らされる。
……だが、それと同時に少しだけ不安が彼女の心のなかで湧いてくる。
「レーヴェは、私をファーレンハルトの別荘まで送ってくれるのよね?」
「ああ、そうだ。きちんとした侯爵家の別荘ならばロッテも不自由なく過ごせるだろう、安心するといい」
そのレーヴェの言葉に、ロッテは素直に頷けないでいた。このまま父の用意した別荘に行けば、またあの屋敷のような生活が待っているのだと思うと何故か嬉しいとは思えなかった。