婚約破棄され辺境地へと追放された私ですが、ワケあり第二王子に溺愛される運命だったようです!
「ぐぅう、はあ……はあっ! はあぁぁ……あ、アンタが……助けてくれたのか?」
先ほどまで苦しがっていたはずの男が、喉を押さえたままロッテを見上げている。吐血は止まり蒼白だった顔色も若干良くなっているようにも見えた。
「……これは、どういうことだ?」
「なにが、あったの?」
ロッテは戸惑い困惑の表情を浮かべているが、先ほどの不思議な感覚は彼女を中心に起きた気がしてレーヴェは真っ直ぐにロッテを見つめた。
聖女の生まれる家系に生まれ、力を持たないために追放された公爵令嬢。彼女の妹は聖女の力を顕現したというが、だからと言って姉であるロッテが聖女の力を持たない理由にはならない。
まさか、と言う気持ちもあるが……それはあまりにもレーヴェにとって都合の良い展開でもあった。
「ロッテ、君は聖女の力を顕現したんじゃないのか? こんな状態の人間を治すなんてそうとしか考えられない」
「そんなはずはっ……! だって、聖女は妹のアンネマリーだけで」
ファーレンハイトの血筋で双子が生まれたことも、聖女が二人誕生したことも過去には一度たりとも無かった。ロッテは頑なにそんなはずはないと言い張るのだが、レーヴェは納得しない。
「ならばこの男のことはどう説明する? 命を落とすような呪術を受けたものが、術者の力なしで回復するなど聞いたことがない。少なくとも俺は、な」
「でも! アンネマリーが力を使った時はこんな風じゃなかった、それに……」
妹のアンネマリーが力を顕現させるとき、甘い売れた果実のような香りがいつも漂っていた。匂いに敏感なロッテがむせ返りそうになるほどの。
だが、今回彼女たちを包んだのは暖かな春の日のような感覚。ロッテの知っているものとは全く違っていたのだ。