婚約破棄され辺境地へと追放された私ですが、ワケあり第二王子に溺愛される運命だったようです!
「それでも自分の命を狙った暗殺者を助けようとするなんて、普通では考えられないほどのお人好しだ。そんな奴は死んでくれた方が安全だって、思うのが当然だからな」
「……そうなんですか? それでも私は、こうする事以外は考えられないです。目の前で苦しむ人をそのままにしておいては、きっと母様に夢で怒られてしまう」
ロッテは母親の姿を実際に見たことはない、彼女がいつも見てきたのは優しげな笑みを浮かべた母の肖像画。でもその絵から出てきたようなリアルな姿で、何度もロッテの夢に現れてくれた。
夢の世界で母親は友達のように笑い合う時もあれば、悲しみに寄り添ってくれる時もあった。もしロッテが間違ったことをすれば、きっと彼女は叱ってくれる。だから……
「聖女の血……か、これが」
「私は聖女ではないですけどね」
納得するように頷く男に、ロッテはそれだけは否定しておく。中途半端な可能性だけで自分が聖女だと思われることが怖くもあった。
それでもベッドの上で男は思う、彼女の人となりと昨日の出来事を見れば誰もがロッテを聖女だと信じるに違いないはずだと。
「聖女アンネマリー、彼女のことを知らないものはいない。だが……」
「認められるのはただ一人の聖女、それがこの国の決まりですから。そろそろ食事の準備をしてきます、ゆっくり休んでてくださいね」
男の言葉に心が揺れる、心のどこかでもし自分が聖女であれば家族やあの屋敷の人間に認めてもらえるのだろうかと。幸せだった頃のように……あの日からアンネマリーにしか興味を示さなくなった父親や元婚約者のカールにも。