婚約破棄され辺境地へと追放された私ですが、ワケあり第二王子に溺愛される運命だったようです!
「途中まではヤックルに乗っていくが、坂がきつくなれば自分たちの脚で進むしかない。なるべく体力は温存しておいてほしい」
「分かったわ、足手纏いにならないように頑張るから」
馬小屋で待っていたヤックルは昨日の疲れも見せず、ロッテにすり寄ってくる。離れて寂しかったというように見つめてくるつぶらな瞳に、ロッテは胸をキュンとさせた。
「今日も一日よろしくね、ヤックル」
「ブルルル……」
どんな動物が相手でもロッテなら、こうして気持ちを伝えることが出来るのではないかとレーヴェは思っていた。溢れるような慈愛とその心の清らかさ、真っ直ぐな気持ちの伝え方の全てが彼女を聖女だと言っているようで。
「そろそろ行こう、今日の目標はゼガナの山を越えることだ」
「ゼガナの山、あそこは険しい場所だと聞いてるわ。頑張らなくてはね」
ゼーフェリング王国内の地理はある程度、過去の聖女教育で習っている。ナーデランド辺境地がこの国では一番の高山地帯だが、ゼガナ山も人が登るにはかなり厳しい地形だった。
それでも王都に行くためには、それを越えなくてはならない。迷っていたり、他の回り道を考えるほどの時間も惜しいので仕方がないのだ。
「行きましょう」
レーヴェがロッテを抱き上げてヤックルに乗せ、自分もその後ろへと腰を下ろした。彼女の背後から腕を伸ばして手綱をひくと、ヤックルが軽快に走り出す。
あっという間に小さかった町を離れ、そのまま道も無いような荒野を走り抜けていく。酷い揺れの中、早く王都に行くことだけを考えロッテは必死でそれに耐えた。