無慈悲な審判
それはちょっと……
僕の母さんは、フェミニストといっても過言ではないだろう。
というのも、男尊女卑が激しい1960年代、学生だった父を食わせるために、一人でバリバリ働いていた女性だからだ。
女性差別やセクハラが当たり前のように、横行していた時代。
学生時代、
「中学校卒業したら、ま、お前も子供でも産んで社会貢献すべきだな」
と、担任教師に言われて、ブチギレ、「クソがっ!」ともらった通知書をビリビリに破ったり。
デパートで働いている頃、強気だった母さんをどうにか潰してやろうと、嫌な男性上司が飲み会で。
「ほーら、おっぱいにタッチしちゃったよ♪」
と、背後から胸を触られた時、「なにしとんじゃ! このハゲェ!」と平手打ちして、上司を黙らせたぐらい。
そういう散々な目にあってきたので、セクハラ、痴漢、下着窃盗、盗撮……。
所謂、ピンク系の犯罪ニュースを見ていると。
テレビに犯人の画像が出た瞬間……。
ビシッと指をさして、一言。
「はい、死刑」
気持ちわからないでも、ないのだが、極刑はあまりにもむごいと、僕は子供ながらに思っていた。
だが、例外がある。
ピンク系じゃない犯罪、特に凶悪な犯罪が多かった気がする。
例えば、放火殺人とか、強盗殺人とか、シリアルキラーとか。
事件内容からすると、捕まった犯人が、本当に犯してしまった事件ならば、明らかに死刑になりそうなニュース。
母もテレビを見ていて、その凄惨な事件の内容に絶句する。
「うわぁ……これ、酷い事件ねぇ……」
僕はこの時、母の『次の一言』を待っていた。
画面に犯人の写真が出た瞬間、こう言う。
「あらやだ! イケメンじゃない、この犯人♪」
「ブフーッ!」
僕は思わずお茶を吹き出す。
「ねぇ、殺人を犯した人だよ? それって違うんじゃない?」
実の母とはいえ、その感覚に狂気を感じる。
「でも、あんた。この人、めっちゃイケメンじゃない♪ 俳優みたい!」
目を輝かせる母。
「えぇ……」
そこはいつもみたいに「はい、死刑」とは言わないんだね、母さん。
ちなみに、母が「死刑」を宣告したピンク系の犯人たちは、だいたい『イケメン』の方ではありませんでした。
了