隠された彼の素顔
フラワーショップには、相変わらず猫背の彼はよく来店した。平日の客足が少ない時間帯に訪れる。
年齢は変わらないくらいなのに、平日に来れる点が智子の厳しいチェックに引っかかる。ちゃんと働いているかどうか怪しいと思うみたいで。
それでも智子は、詐欺師と出会わせるきっかけを作ったのは自分だと猛烈に反省して、たくさん謝られた。だから、最近はあまり口うるさく言われない。
私はというと、戦隊ショーに出る仕事をしているから、時間帯が会社員とは違うんじゃないかなと、未だ夢見心地な妄想をしては、ひとり苦笑していた。
今日も戦隊ショーを見に行く。今回はショッピングモール。ついでに洋服でも見て帰ろうと考えて家を出た。
ショーが終わり、周りの親子連れが帰ってから立ち上がると、声をかけられた。前に話しかけられた緑川さんだった。
「レッドに挨拶していきませんか?」
突然の提案に息を飲む。
「以前、親切にしてもらったと言っていたので、直接お礼を伝えてやってください。喜びます」
誘われるまま、控え室らしい部屋に案内された。
中にはレッドがいて、どうしてか気持ちが動転した。よくわからない話を口走った気がする。
お会いしたくてとか、マッチングアプリの話とか、気になっている人がいる話まで。
会いたかったのは本当だ。彼が誰なのか、気になっていた。だから、つい気になっている人がいると口走ってしまったのかもしれない。
気になっているのは、猫背の彼なのか、レッドの正体なのか。