隠された彼の素顔

「それなら、どうして応援しに来てくれるんだい?」

 聞かれて口籠る。その彼があなたなんじゃないかって、妄想してしまうんですとは口が裂けても言えない。

「俺のこと気になっているから?」

 心を読まれた気がして、一瞬で顔が熱くなった。

「うれしいよ」

 そう言って、彼はマスクに手をかけた。

 心臓が一気に鼓動を速めた。素顔が知れる期待感で、彼の顔を凝視する。

 マスクは鼻先まで上げられ、シャープな顎のラインと形のいい唇が視界に入る。

 けれどマスクはそこで止まり、彼の顔が近づいてきた。

 咄嗟に顔を俯かせ、「ご、ごめんなさい」と謝った。なんに対しての謝罪かわからないけれど、心臓は有り得ない速さで音を立てる。

 逃げるように控え室を飛び出して、離れた場所のベンチに崩れるように座った。

「な、なにが起こったの?」

 平和なショッピングモールの昼下がり。人の行き交う通路脇のベンチで、ひとり回想する。

 頭の中に流れるのは、高い鼻先とその下にある薄い唇。美しい顎が傾げられ、ゆっくり近づいてくる映像。

 慌てて顔を覆っても、頬が火照るのは止められない。

 まるで有名な映画のワンシーンみたいだった。素性を明かせないヒーローがヒロインにキスをする。

「えっ? えっ?」

 思い浮かんだ単語に、自分自身がうろたえる。

 そんなわけない。そんなわけないよ。だってレッドはみんなのヒーローだもの。
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