隠された彼の素顔

 俺の登場に彼女は、声を弾ませる。

「悪者をやっつけてくれて、スカッとしました」

「呼んでくれれば、きみの前にも現れて助けてみせるよ」

 セリフ風に言ってみせると、彼女は笑みをこぼした。

「ふっ、ふふ。本当ですか? お願いしたいな」

 なにを隠そう、俺はショーに参加していたレッドだ。その姿のまま、傘を持ちベンチに女性と並んで座っている絵面は、ものすごく奇妙でシュールに違いない。

「私、騙されちゃったみたいで」

 明るく話し出す彼女に、なにも言えずただ耳を傾ける。

「結婚するから、モデルハウスでも見に行かないかって言われて来たんです。でも約束の時間になっても現れなくて。彼が結婚詐欺師だと、ニュース速報で知ったんです」

「警察には?」

 彼女は首を小さく振る。

「私はまだ運が良くて。なにか取られる前に、他の被害届で彼が捕まったから」

「強がらなくていい。だからって傷つかないわけじゃない」

 肩を震わせて、彼女は再び涙を流す。

「優しいんですね。レッドさんって」

 震えている肩を抱き寄せたかったけれど、その拳をギュッと握る。

「傘、あげるよ。きみを助けられなかったお詫び」

「えっ、そんな」

 戸惑う彼女に強引に傘を渡し、控え室に駆けていく。

「ありがとう! レッドさん!」

 俺は振り向かずに、二本の指を上げ、横にスライドさせた。これがレッドが去るときの決めポーズだから。

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