隠された彼の素顔

 俺は彼女に歩み寄る。あの日と同じ様に、鼻先までマスクを上げながら。

「やっぱり俺と、キスしたくなった?」

 目を丸くする彼女の顎に指をかけ、上を向かせる。彼女の瞳が揺れている。

 顔を近づけていっても、今度は拒否する素振りを見せない。

 あと少しで唇が触れる。その手前で、俺は彼女から体を離した。

「出て行ってくれないか」

 彼女はなにも言わない。

「俺の前に二度と現れないでくれ!」

 彼女は片手で口元を覆い、部屋を出て行った。玄関の閉まる音がこちらまで響き、虚しさが込み上げる。

 どうせ俺の見た目を知って、近づこうと考えたんだ。結局、そういう人だったんだ。

 俺は、マスクをむしり取って投げ捨てた。
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