隠された彼の素顔

 控え室に入り、息を吐く。すると先に着替えていたブルーやグリーンが、茶化すように言った。

「よくやるよ」

「ま、俺たち夢を売る仕事だろ?」

 雨が降り出しても帰らない彼女は、ほかのメンバーの目にも留まっていた。その中で「俺、話しかけてくる」とベンチに向かった。

 ある意味、レッドらしい行動ではあるのだが。

 素の自分に戻り、なにをしているんだろうと僅かばかりの後悔を振り払うように、顎あたりに手をかけて顔全体を覆っているマスクを脱いだ。

 張り付いた髪が煩わしくて、頭を振る。開放感と共に、魔法が解ける音を聞いた気がした。

 ボディスーツも脱ぎ、私服に着替えると本来の俺になる。急に猫背になり、眼鏡を押し上げる。

 まだ残っていた演者たちに軽く会釈をしてから、控え室を後にした。

 普段は帽子に眼鏡と、風邪のときに使う方のマスクをしている。有名人を気取っているわけじゃない。単に対人恐怖症気味なだけ。

 そこまで武装しても、人と喋るときにオドオドしてしまう自分が嫌いだ。

 ただスーツアクターとして、ボディスーツとマスクを身につけると別人になれた。背筋はスッと伸び、自信に満ち溢れたレッドそのもの。

 嘲笑して、ひとり言をこぼす。

「笑っちゃうよ。なにが違うんだ」

 騙した詐欺師はたしかに悪者だ。けれど戦隊戦士のレッドとして偽っている自分は、騙していることにならないのだろうか。
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