隠された彼の素顔

「本来のグリーン役の、緑川さんを知っているね? 緑川さんと賭けをした。この騒動を収めるために、俺のフリをする役を買ってでてくれた彼と」

『俺、普通の顔だからさ。嫌味だよな。男前の顔が嫌いなんだからよ』そう言って胸元に拳を軽く当てる緑川さんは、ニッと口の端を上げて俺に言った。

『代わりにお前はグリーンになれよ。もしも見破れた奴がいたら、その人には本当のお前を見せるんだ』

 わかるわけないと思った。緑川さんがレッドを演じたのは今日だけだ。今までのレッドは別の代役を頼んでいた。

 背格好が似ている人に頼んでいたとはいえ、誰も「中の人間が違うじゃないか!」と抗議する人はいなかった。

 彼女には、この内容を要約して伝える。

「グリーンが俺だとわかった人物に、素顔を見せると約束した」

 マスクをしていても、声が震えそうになったが、なんとかレッドを演じ切れた。

 息をついて、無言でマスクに手をかける。ゆっくりとめくり始めると、制止された。

「待ってください。どうして、その、あのとき、キスをしようとしたのは、レッドを演じていたからですか?」

 彼女は顔を真っ赤にさせ、しどろもどろになりながら質問をした。

 俺は不敵な笑みを浮かべて言う。

「そうだよ。レッドはキザな男だからね」

 役柄はそうだ。けれど、本当は違う。
 だからといって、この気持ちは伝えるべきじゃない。俺は素顔を見せ終わったら、彼女の前から去る決意でいた。
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